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横浜市立大学 YOKOHAMA CITY UNIVERSITY

異質倍数体植物における祖先種由来のストレス応答機構 -異質倍数体作物の改良や有用遺伝子の探索に役立つ基盤-

2018.03.15
  • プレスリリース
  • 学生の活跃
  • 研究

異質倍数体植物における祖先種由来のストレス応答機構 -異質倍数体作物の改良や有用遺伝子の探索に役立つ基盤-

~『骋颈驳补厂肠颈别苍肠别』に掲载~

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター セルロース生産研究チームの高萩航太郎大学院生リサーチ?アソシエイト(横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科)、持田恵一チームリーダー(横浜市立大学大学院客員准教授)らの研究チームは、イネ科草本の异质倍数体种[1]とその祖先二倍体种[2]を用いた生物学的実験と情报学的な解析から、异质倍数体种が示す高温ストレス耐性に関连する、祖先二倍体种から受け継いだゲノム上の特定の遗伝子群の初期ストレス応答を明らかにしました。
植物ゲノムの异质倍数化[3]は、新たな种の诞生に重要な役割を担ってきました。近年の比较ゲノム研究から、地球の歴史において多くの植物种がゲノム倍数化[3]を経験したことが示され、ゲノム倍数化が种の环境适応性の向上に関与したとする仮説が议论されています。异质倍数体种の植物の环境适応メカニズムを理解できれば、植物の环境适応性を向上するための有用遗伝子の同定が可能になると考えられます。それにより、劣悪环境下における作物の生产性を维持?向上するための有用な手段につながると期待できます。しかし、复数のゲノムが混在する倍数体种は遗伝子の构成が复雑であるため、祖先ゲノムの働きと倍数体种が示す有用な形质との関连性の理解はほとんど进んでいませんでした。
今回、研究チームは、植物における異質倍数化がどのようなゲノム機能の変化を起こし、環境適応性の向上につながったのかを解明するため、イネ科草本の异质倍数体种とその祖先二倍体种におけるゲノム?トランスクリプトーム[4]の网罗的な比较解析と、高温ストレスに対する応答や耐性との関连を调査しました。その结果、研究に用いたイネ科草本の异质倍数体种における、祖先二倍体种から受け継いだ遗伝子の発现様式の変化を定量的に示すとともに、その高温ストレス耐性が、祖先二倍体种から受け継いだゲノム上の特定の遗伝子の働きに由来することを示唆する结果を得ました。
本成果は、环境ストレス耐性に関わる有用遗伝子の探索により、植物バイオマス生产性の向上のための基盘的な知见としての活用が期待できます。
本研究は、国际科学雑誌『GigaScience』のオンライン版(3月8日付け)に掲载されました。
本研究はJST戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)の一環として行われました。

※研究チーム

理化学研究所 环境资源科学研究センター セルロース生产研究チーム
 チームリーダー         持田 恵一 (もちだ けいいち)
 (横浜市立大学 木原生物学研究所 客员准教授)
 大学院生リサーチ?アソシエイト 高萩 航太郎(たかはぎ こうたろう)
 (横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 博士后期课程)
 テクニカルスタッフ       井上 小槙 (いのうえ こまき)
 テクニカルスタッフ       清水 みなみ(しみず みなみ)
 テクニカルスタッフ       上原 由纪子(うえはら ゆきこ)
 研究员             恩田 义彦 (おんだ よしひこ)

1.背景 

ゲノムの异质倍数化はよく有用种を生み、コムギやワタをはじめ、异なるゲノムを3セット以上持つ多くの异质倍数体种の植物が作物として利用されています。异质倍数化は、同一种内の遗伝子构成を多様化することで雑种强势を获得する原因の一つとも考えられています。异质倍数体种は、同じゲノムを2セット持つ二倍体种[2]や3セット以上持つ同质倍数体种[1]に比べ、环境ストレスに强く、大きく育つことがたびたび観察されています。异质倍数体种の环境适応メカニズムを理解することができれば、劣悪环境下における作物の生产性を维持?向上するための有用な手段につながると期待できます。
イネ科草本の异质倍数体种Brachypodium hybridumB. hybridum)は、二倍体种Brachypodium distachyonB. distachyon、ミナトカモジグサ[5])とBrachypodium staceiB. stacei)が自然交雑し、ゲノム倍数化したことで诞生しました(図1)。B. hybridumは、祖先二倍体种に比べて环境ストレス耐性が高く、生息域が広いことが知られています。これら叁つの种は进化関係が分かっており、実験室内で栽培できて精密な植物生理学実験も可能なため、异质倍数体种と祖先二倍体种の遗伝子机能と环境适応性の関连を研究するためのよいモデルになります。
図1 ミナトカモジグサ種植物の系統関係  イネ科草本の异质倍数体种B. hybridum(2n=30)は、二倍体种B. distachyon(ミナトカモジグサ、2n=10)とB. stacei(2n=20)が自然交雑し、ゲノム倍数化したことで誕生した。

2.研究手法と成果

研究チームはまず、异质倍数体种B. hybridumとその祖先二倍体种であるB. distachyonB. staceiの高温ストレス耐性を比较しました。その结果、B. hybridumB. staceiのみが长期间の高温ストレスに対して耐性を示しました(図2)。
図2 ミナトカモジグサ種植物における高温耐性の違い  高温ストレスがミナトカモジグサ種植物に与える影響を示したグラフ。通常環境下(22℃)と高温ストレス環境下(32℃)で15日間育てたB. distachyon (Bd)、B. stacei (Bs)、 B. hybridum (Bh)のそれぞれの新鮮重量を測定した。各バーは12個体の平均値±標準偏差を表す。B. distachyonのみが、通常環境下で育てた場合に比べて、高温ストレス環境下で育てた植物の新鮮重量が有意に低下していた。
次に、异质倍数体种が持つゲノムの倍数化によって重复した遗伝子セット(ホメオログ)を识别するために、祖先二倍体种であるB. distachyonB. staceiのゲノム配列の间で観察される一塩基多型(厂狈笔)[6]をゲノムワイドに収集しました。B. hybridumおよびB. staceiの全ゲノムの顿狈础配列を解読し、すでに公开されている高精度なB. distachyonゲノムと比较することで、5,720,539ヵ所の多型情报を得ることができました(図3(1))。この多型情报により、B. hybridumのホメオログごとの遗伝子発现を解析することが可能になりました(図3)。
図3 ミナトカモジグサ種植物のゲノムの比較  B. hybridum、B. stacei、B. distachyonの三種のゲノムを比較することで検出したDNAの一塩基多型(SNP)の分布をB. distachyonのゲノムを構成する5本の染色体(Bd1~Bd5)上に示した図。5,720,539ヵ所の多型情報を得ることができた。 (1) 異質倍数体種であるB. hybridumのゲノムを構成するB. staceiとB. distachyonに由来するゲノムの間で検出されたSNPの分布。 (2) B. hybridumゲノムとB. distachyonゲノムの間で検出されたSNPの分布。 (3) DNA配列の一致性に基づいてB. distachyonゲノム上に位置づけたB. hybridumのDNA配列の分布。色が濃いほど位置づけられたDNA配列が多い。 (4) B. staceiゲノムとB. distachyonゲノムの間で検出されたSNPの分布。 (5) DNA配列の一致性に基づいてB. distachyonゲノム上に位置づけたB. staceiのDNA配列の分布。色が濃いほど位置づけられたDNA配列が多い。 (6) B. distachyon染色体上の遺伝子の密度。
次に、异质倍数体种B. hybridumにおける、祖先二倍体种から受け継いだ遗伝子の発现様式が、异质倍数性进化の过程でどれほど変化したのかを明らかにするために、B. hybridumB. distachyonおよびB. staceiの叶と根のトランスクリプトーム解析を行いました。その结果、B. hybridumの遺伝子の23~38%の発現様式が祖先二倍体種の遺伝子の発現様式と異なることが分かりました(図4)。さらに、発現様式が変化した遺伝子群の中には主要な代謝プロセスやストレス応答等に関連する遺伝子が有意に多く含まれていました。異質倍数体種とその祖先二倍体种における遺伝子の発現様式の変化を網羅的かつ詳細に調べた例はほとんどなく、これらの結果は異質倍数体種の多様な遺伝子発現様式と環境適応性の関連を理解するための有用な情報を提供します。
図4 異質倍数化による遺伝子の発現様式の変化  異質倍数化による遺伝子の発現様式の変化の例を示した。ある遺伝子の発現量を比べたとき、祖先二倍体種間の遺伝子発現量には差はないが、異質倍数体種内の重複した遺伝子セット(同祖遺伝子)間の現量に差があれば、発現様式が変化したと考えられる。同祖遺伝子AおよびBはそれぞれ、祖先二倍体種AおよびBに由来する遺伝子を表す。このような発現様式の変化が、B. hybridumの葉で発現している遺伝子の23~38%、根で発現している遺伝子の26~35%で観察された。
そして、异质倍数体种B. hybridumが异なる二つのゲノムをどのように制御することで高温耐性を得ているかを调べるために、通常环境下と高温ストレス环境下で育てた植物のトランスクリプトーム解析を行いました。その结果、B. hybridumおよびB. staceiは、高温ストレス初期に遗伝子発现パターンを大きく変化させることで高温に适応し、长期间の高温ストレスにより耐性を获得していることが示されました(図4)。また、高温ストレス初期における祖先二倍体种间およびB. hybridumのホメオログ间の遗伝子発现量を比较すると、ストレス応答の机能を持つ遗伝子群がB. staceiゲノム侧で有意に高く発现していることが分かりました。この结果から、异质倍数体种B. hybridumの高温耐性获得にはB. staceiゲノム由来の遗伝子群による高温ストレス応答が贡献していることが示唆されました。
図5 高温ストレス環境下におけるミナトカモジグサ種植物のトランスクリプトーム  通常環境下(22℃)と高温ストレス環境下(32℃)で、3日間および15日間育てたときのB. distachyon (Bd)、 B. stacei (Bs)、 B. hybridum (Bh)の葉の遺伝子発現の様子を比較した。また、B. hybridumのゲノムを構成するB. distachyonゲノム上の遺伝子(BhBd)とB. staceiゲノム上の遺伝子(BhBs)の遺伝子発現の様子を比較した。赤いほど遺伝子発現の様式が類似しており、青いほど遺伝子発現の様式が異なっていることを表わす。黄色の線で囲んだ部分を見ると、高温耐性のあるB. hybridumおよびB. staceiは、高温ストレス3日目に遺伝子発現を大きく変化させたが、15日目には通常環境下で育った植物と類似した遺伝子発現になっていた。一方、高温耐性のないB. distachyonは、高温ストレス3日目では通常環境と類似した遺伝子発現を示したが、15日目に通常環境と比べ遺伝子発現の様子が大きく変化した。

3.今后の期待

本研究で用いたミナトカモジグサ种植物は、コムギやオオムギなどの主要穀物が含まれているイネ科のイチゴツナギ亜科に属しており、これらの近縁作物への知见の利用が期待できます。
また、本研究で得られた、异质倍数体种の祖先ゲノム间の多型情报や、祖先ゲノムに由来する高温耐性获得への関与が示唆される遗伝子群の情报は、他の异质倍数体植物の分子育种や有用遗伝子の探索における基盘情报としても活用でき、植物バイオマスの生产性の向上による二酸化炭素の削减への応用が期待できます。
さらに、植物における异质倍数性进化がどのようなゲノム机能の変化を起こし、环境适応性の向上につながったのかを解明するための新たな知见となることも期待できます。

4.论文情报

<タイトル>
Homoeolog-specific activation of genes for heat acclimation in the allopolyploid grass Brachypodium hybridum
<着者名>
Kotaro Takahagi, Komaki Inoue, Minami Shimizu, Yukiko Uehara-Yamaguchi, Yoshihiko Onda and Keiichi Mochida
<雑誌>
GigaScience
<顿翱滨>
10.1093/gigascience/giy020

5.补足説明

[1] 異質倍数体種、同質倍数体種
生存に必要な染色体セット(ゲノム)を叁つ以上持つ生物种を倍数体种という。同じゲノムのみを持つ同质倍数体种と异なるゲノムを持つ异质倍数体种が存在する。

[2] 祖先二倍体種、二倍体種
二倍体种は、生存に必要な染色体セット(ゲノム)を両亲から1セットずつ受け継ぎ、合わせて2セット持つ生物种のこと。祖先二倍体种は、交雑によって异质倍数体种の成立に関わったゲノム构成が二倍体である祖先种。B. hybridumにとっては、B. distachyonB. staceiが祖先二倍体种にあたる。

[3] 異質倍数化、ゲノム倍数化
ゲノム倍数化は、生存に必要な染色体セット(ゲノム)の数が多くなる现象のこと。异质倍数化は、祖先二倍体种の交雑によって生じた雑种で起きるゲノム倍数化。

[4] トランスクリプトーム
细胞内の全ての転写物をさす言叶。

[5] ミナトカモジグサ
コムギやオオムギなどのムギ类に近縁なモデル草本植物。

[6] 一塩基多型(SNP)
個体間でのゲノム構成の違いのうち、集団における頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。代表的なものとして一塩基(チミン:T、グアニン:G、シトシン:C、アデニン:A)の違いによる一塩基多型がある。SNPはSingle nucleotide polymorphismの略。

6.発表者?机関窓口

<発表者> ※研究内容については発表者にお问い合わせ下さい
理化学研究所 环境资源科学研究センター セルロース生产研究チーム
チームリーダー         持田 恵一(もちだ けいいち)
大学院生リサーチ?アソシエイト 高萩 航太郎(たかはぎ こうたろう)
罢贰尝:045-503-9186 贵础齿:045-503-9182
贰-尘补颈濒:keiichi.mochida@riken.jp(持田)


<机関窓口>
理化学研究所 広报室 报道担当
罢贰尝:048-467-9272 贵础齿:048-462-4715
贰-尘补颈濒:ex-press@riken.jp

横浜市立大学 研究企画?产学连携推进课长 渡边 诚
罢贰尝:045-787-2510 贵础齿:045-787-2509
贰-尘补颈濒:kenki@yokohama-cu.ac.jp

科学技术振兴机构 広报课
罢贰尝:03-5214-8404 贵础齿:03-5214-8432
贰-尘补颈濒:jstkoho@jst.go.jp

<闯厂罢事业に関すること>
江森 正憲(えもり まさのり)
科学技术振兴机构 环境エネルギー研究开発推进部 础尝颁础グループ
罢贰尝:03-3512-3543 贵础齿:03-3512-3533
贰-尘补颈濒:alca@jst.go.jp
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