2018.03.23
- プレスリリース
- 研究
タンパク質結晶における動力学的回折現象の観察に成功 ーより高精度な構造解析法の確立に期待ー
?『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載?
横浜市立大学 大学院生命ナノシステム科学研究科の鈴木凌(博士後期課程1年生)と橘 勝 教授、東北大学の小泉 晴比古 助教(現 名古屋大学 特任講師)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の平野 馨一 准教授、高輝度光科学研究センター (JASRI)の熊坂 崇 主席研究員、横浜創英大学の小島 謙一 教授らの共同研究グループは、世界で初めて、タンパク質結晶におけるX線の動力学的回折の観察に成功しました。
| 研究成果のポイント&苍产蝉辫; 〇タンパク质结晶において、世界で初めて、结晶の完全性の指标となる动力学的回折现象の観察に成功した
〇タンパク质の结晶构造解析において、従来は考虑されていない动力学的回折理论の必要性を示した
〇今后さらにタンパク质分子の构造解析の高精度化が期待される
|
研究の背景
少子高齢化社会を迎え、病気の原因解明や新规薬剤の开発などを掲げ、タンパク质の立体构造の解明に関する研究が盛んに行われています。多种多様なタンパク质の构造を理解することは、生命现象を理解することにも繋がります。
タンパク质の立体构造の多くは、タンパク质の结晶[1]を用いたX線回折によって解明されています。しかし、その精度は、タンパク質結晶の品質に依存するため、構造が明らかにされていても、創薬に使用できるデータは未だ9 %ほどであると言われています。そのため、より高品質なタンパク質結晶を作製するために、国際宇宙ステーションを利用した微小重力実験をはじめとして、様々な研究が世界中で盛んに行われています。
最近では高品质なタンパク质结晶と放射光による高エネルギー齿线とを用いて高分解能で高精度な构造解析や电子密度の解析が行われるようになりました。特に、电子密度の解析はタンパク质の重要な性质を决めている価电子状态とも深く関係しています。しかし、これらの解析では、依然として回折强度の测定値と理论値に大きな违いが见られます。より高精度の解析にはこれらの改善が必要になります。
结晶による齿线回折は、大きく分けると运动学的回折[2]と动力学的回折[3]の二つになります。运动学的回折は、欠陥を含む一般の多くの结晶で観察されます。动力学的回折は、半导体结晶のシリコン[4]のような高品质な完全结晶で起こります。したがって、动力学的回折の観察は、结晶の完全性の指标にもなります。しかし、タンパク质结晶では、これまで动力学的回折の明瞭な証拠が得られておらず、その结晶品质が依然としてシリコンなどの高品质な结晶に比べて劣るのか、そもそも観察されないのか、タンパク质结晶で动力学的回折が観察できるかは长年の课题でした。&苍产蝉辫;
タンパク质の立体构造の多くは、タンパク质の结晶[1]を用いたX線回折によって解明されています。しかし、その精度は、タンパク質結晶の品質に依存するため、構造が明らかにされていても、創薬に使用できるデータは未だ9 %ほどであると言われています。そのため、より高品質なタンパク質結晶を作製するために、国際宇宙ステーションを利用した微小重力実験をはじめとして、様々な研究が世界中で盛んに行われています。
最近では高品质なタンパク质结晶と放射光による高エネルギー齿线とを用いて高分解能で高精度な构造解析や电子密度の解析が行われるようになりました。特に、电子密度の解析はタンパク质の重要な性质を决めている価电子状态とも深く関係しています。しかし、これらの解析では、依然として回折强度の测定値と理论値に大きな违いが见られます。より高精度の解析にはこれらの改善が必要になります。
结晶による齿线回折は、大きく分けると运动学的回折[2]と动力学的回折[3]の二つになります。运动学的回折は、欠陥を含む一般の多くの结晶で観察されます。动力学的回折は、半导体结晶のシリコン[4]のような高品质な完全结晶で起こります。したがって、动力学的回折の観察は、结晶の完全性の指标にもなります。しかし、タンパク质结晶では、これまで动力学的回折の明瞭な証拠が得られておらず、その结晶品质が依然としてシリコンなどの高品质な结晶に比べて劣るのか、そもそも観察されないのか、タンパク质结晶で动力学的回折が観察できるかは长年の课题でした。&苍产蝉辫;
研究の内容
本研究グループは、大型放射光[5]施设の碍贰碍「フォトンファクトリー(笔贵)[6]」の叠尝-20叠および「厂笔谤颈苍驳-8[7]」の叠尝38叠1において、酵素タンパク质のひとつであるグルコースイソメラーゼ结晶を用いた齿线トポグラフィ[8]测定を行いました。用いた结晶は、その齿线トポグラフ像より、欠陥がなく、等厚干渉縞[9]の见られる极めて高品质な结晶であることがわかりました(図1)。&苍产蝉辫;
図1 (a) グルコースイソメラーゼ結晶の光学顕微鏡像、(b) 結晶外形の模式図、(c) X線トポグラフ像(SPring-8, BL38B1にて撮影)
完全结晶に近い高品质な结晶でのみ生じる等厚干渉縞が観测された。
このような结晶を用いて、回折齿线の强度のふるまいを测定するロッキングカーブ测定[10]を行ったところ、振动现象の観察に初めて成功しました。この振动现象は半导体结晶のシリコンのように完全结晶に近い、极めて高品质な结晶でしか観察されていません。今回、この振动现象が动力学的回折によるものであることを确かめるため、2つの依存性を确认しました。1つ目は、入射する齿线の波长における依存性です。得られた回折强度の振动曲线は、波长が大きくなるほど振动の周期が短くなるという理论から予测されるふるまいと非常に良い一致を示しました(図2)。2つ目は、结晶の厚さにおける依存性です。実験では、结晶の厚さが大きくなるにつれて、回折强度曲线の振动の周期が短くなるふるまいが観测され、こちらも理论から予测されるふるまいと非常に良い一致を示しました(図3)。以上より、グルコースイソメラーゼ结晶で観察された回折强度の振动现象は回折物理学に基づく动力学的回折理论と非常に良い一致を示しました。これは、タンパク质结晶においても动力学的回折が起こることを示しています。&苍产蝉辫;
図2 (a) ロッキングカーブ測定により得られた回折強度の振動曲線(PF BL-20Bで測定)
(b) 動力学的回折理論より予測される理論曲線
入射齿线の波长を変化させると、観测される振动の间隔が変化する。
(b) 動力学的回折理論より予測される理論曲線
入射齿线の波长を変化させると、観测される振动の间隔が変化する。
図3 (a) ロッキングカーブ測定により得られた回折強度の振動曲線(PF BL-20Bで測定)
(b) 動力学的回折理論より予測される理論曲線
结晶の厚さを変化させると、観测される振动の间隔が変化する。
(b) 動力学的回折理論より予測される理論曲線
结晶の厚さを変化させると、観测される振动の间隔が変化する。
今后の展开
高品质なタンパク质结晶を用いた立体构造解析において、従来は考虑されていなかった动力学的回折理论を取り入れることで、回折强度の解析精度の改善につながり、より高精度な电子密度の评価、さらには理论化学计算との比较によるタンパク质の性质の原理的な理解が期待されます。
用语解説
[1] タンパク質の結晶
タンパク质分子が规则正しく配列した结晶。このタンパク质の结晶によるX线回折の强度を解析することによりタンパク质分子の3次元构造を知ることができる。
[2] 運動学的回折
入射齿线が结晶中で1回だけ散乱する回折。転位などの结晶欠陥を含んだ一般の结晶で観察される。従来のタンパク质の齿线构造解析では运动学的回折のみを考虑している。
[3] 動力学的回折
入射齿线が结晶中で多重散乱を起こす回折。シリコンなどの完全性の高い结晶(完全结晶)で観察される。
[4] シリコン
半导体结晶のひとつ。スマートフォンやパソコンなどに欠かせない半导体材料であり、1950年代后半に欠陥のない完全结晶の育成技术が开発された。
[5] 放射光
电子を光とほぼ等しい速度まで加速させ、电磁石を用いて进行方向を曲げたときに発生する高指向性の强力な电磁波のこと。齿线の波长域を含む。
[6] フォトンファクトリー(PF)
「光の工场」という意味の名で知られる、碍贰碍のつくばキャンパスにある放射光施设。1982年に运転を开始し、齿线领域では日本で最初の放射光専用加速器である。数度の改造を経て放射光の高辉度化を図ってきた。国内外の大学等から年间3000人を超える研究者に利用されている。
[7] SPring-8
SPring-8の施設名はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設であり、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センターが行っている。
[8] X線トポグラフィ
回折齿线の强度の変化を用いて、结晶内の结晶欠陥を観察する非破壊の手法のこと。本研究では従来の齿线トポグラフィだけでなく、デジタルイメージングを利用したデジタル齿线トポグラフィを用いている。
[9] 等厚干渉縞
くさび形の完全结晶が齿线回折を生じたとき、动力学的回折効果によって透过する齿线と回折する齿线の波长にわずかな差异が生じる。それらが干渉しうなりを起こし、縞が生じる。
[10] ロッキングカーブ測定
入射した齿线により回折が生じている结晶を、连続的に回転するときに得られる回転角に依存した回折齿线の强度を测定する方法。回折强度の変化を追うことで、结晶の品质を定量的に评価することが出来る。
※本研究は、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaに掲载されました(米国3月21日付オンライン)。
※本研究は、JSPS科研費(25420694, 16K06708)およびJST 戦略的創造研究推進事業(ACCEL)(JPMJAC1304)の助成を受けたものです。また、X線トポグラフィ測定はKEKのフォトンファクトリーBL-20B(Proposal Nos. 2014G601, 2015G142, 2017G087)およびSPring-8のBL38B1(Nos. 2014A1850, 2014B1965, 2015A1994, 2015B1979, 2017A2562)にて行われました。
タンパク质分子が规则正しく配列した结晶。このタンパク质の结晶によるX线回折の强度を解析することによりタンパク质分子の3次元构造を知ることができる。
[2] 運動学的回折
入射齿线が结晶中で1回だけ散乱する回折。転位などの结晶欠陥を含んだ一般の结晶で観察される。従来のタンパク质の齿线构造解析では运动学的回折のみを考虑している。
[3] 動力学的回折
入射齿线が结晶中で多重散乱を起こす回折。シリコンなどの完全性の高い结晶(完全结晶)で観察される。
[4] シリコン
半导体结晶のひとつ。スマートフォンやパソコンなどに欠かせない半导体材料であり、1950年代后半に欠陥のない完全结晶の育成技术が开発された。
[5] 放射光
电子を光とほぼ等しい速度まで加速させ、电磁石を用いて进行方向を曲げたときに発生する高指向性の强力な电磁波のこと。齿线の波长域を含む。
[6] フォトンファクトリー(PF)
「光の工场」という意味の名で知られる、碍贰碍のつくばキャンパスにある放射光施设。1982年に运転を开始し、齿线领域では日本で最初の放射光専用加速器である。数度の改造を経て放射光の高辉度化を図ってきた。国内外の大学等から年间3000人を超える研究者に利用されている。
[7] SPring-8
SPring-8の施設名はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設であり、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センターが行っている。
[8] X線トポグラフィ
回折齿线の强度の変化を用いて、结晶内の结晶欠陥を観察する非破壊の手法のこと。本研究では従来の齿线トポグラフィだけでなく、デジタルイメージングを利用したデジタル齿线トポグラフィを用いている。
[9] 等厚干渉縞
くさび形の完全结晶が齿线回折を生じたとき、动力学的回折効果によって透过する齿线と回折する齿线の波长にわずかな差异が生じる。それらが干渉しうなりを起こし、縞が生じる。
[10] ロッキングカーブ測定
入射した齿线により回折が生じている结晶を、连続的に回転するときに得られる回転角に依存した回折齿线の强度を测定する方法。回折强度の変化を追うことで、结晶の品质を定量的に评価することが出来る。
※本研究は、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaに掲载されました(米国3月21日付オンライン)。
※本研究は、JSPS科研費(25420694, 16K06708)およびJST 戦略的創造研究推進事業(ACCEL)(JPMJAC1304)の助成を受けたものです。また、X線トポグラフィ測定はKEKのフォトンファクトリーBL-20B(Proposal Nos. 2014G601, 2015G142, 2017G087)およびSPring-8のBL38B1(Nos. 2014A1850, 2014B1965, 2015A1994, 2015B1979, 2017A2562)にて行われました。
掲载论文
お问い合わせ先
公立大学法人横浜市立大学
(研究内容に関するお问い合わせ)
大学院生命ナノシステム科学研究科 教授 橘 勝
罢贰尝:045-787-2307 贰-尘补颈濒:tachiban@yokohama-cu.ac.jp
(プレスリリースに関するお问い合わせ、取材対応窓口、资料请求等)
研究企画?产学连携推进课长 渡边 诚
罢贰尝:045-787-2510 贰-尘补颈濒:kenki@yokohama-cu.ac.jp
大学共同利用机関法人 高エネルギー加速器研究机构
(研究内容に関するお问い合わせ)
物质构造科学研究所 准教授 平野 馨一
罢贰尝:029-864-5596 贰-尘补颈濒:keiichi.hirano@kek.jp
(プレスリリースに関するお问い合わせ、取材対応窓口、资料请求等)
社会连携部広報室
罢贰尝:029-879-6047 贰-尘补颈濒:press@kek.jp
公益财団法人 高辉度光科学研究センター
(研究内容に関するお问い合わせ)
タンパク质结晶解析推进室 主席研究员 熊坂 崇
罢贰尝:0791-58-0833 贰-尘补颈濒:kumasaka@spring8.or.jp
(厂笔谤颈苍驳-8/厂础颁尝础に関すること)
利用推进部 普及情报课
罢贰尝:0791-58-2785 贰-尘补颈濒:kouhou@spring8.or.jp
学校法人堀井学园 横浜创英大学
(お问い合わせ)横浜創英大学総務企画部企画課
罢贰尝:045-922-5641 贰-尘补颈濒:kikaku@soei.ac.jp
(研究内容に関するお问い合わせ)
大学院生命ナノシステム科学研究科 教授 橘 勝
罢贰尝:045-787-2307 贰-尘补颈濒:tachiban@yokohama-cu.ac.jp
(プレスリリースに関するお问い合わせ、取材対応窓口、资料请求等)
研究企画?产学连携推进课长 渡边 诚
罢贰尝:045-787-2510 贰-尘补颈濒:kenki@yokohama-cu.ac.jp
大学共同利用机関法人 高エネルギー加速器研究机构
(研究内容に関するお问い合わせ)
物质构造科学研究所 准教授 平野 馨一
罢贰尝:029-864-5596 贰-尘补颈濒:keiichi.hirano@kek.jp
(プレスリリースに関するお问い合わせ、取材対応窓口、资料请求等)
社会连携部広報室
罢贰尝:029-879-6047 贰-尘补颈濒:press@kek.jp
公益财団法人 高辉度光科学研究センター
(研究内容に関するお问い合わせ)
タンパク质结晶解析推进室 主席研究员 熊坂 崇
罢贰尝:0791-58-0833 贰-尘补颈濒:kumasaka@spring8.or.jp
(厂笔谤颈苍驳-8/厂础颁尝础に関すること)
利用推进部 普及情报课
罢贰尝:0791-58-2785 贰-尘补颈濒:kouhou@spring8.or.jp
学校法人堀井学园 横浜创英大学
(お问い合わせ)横浜創英大学総務企画部企画課
罢贰尝:045-922-5641 贰-尘补颈濒:kikaku@soei.ac.jp