2020.11.25
- プレスリリース
- 研究
お米(イネ胚乳)の生长を制御する遗伝子を同定
?受粉无しでデンプンを蓄积?
横浜市立大学 木原生物学研究所 木下 哲 教授、岩手大学 殿崎 薫 助教(前 横浜市立大学 特任助教)らの研究グループは、イネの可食部にあたる胚乳の発生に関する研究から、デンプン合成を含めお米の生長を制御している遺伝子を同定することに成功しました。
イネの胚乳は、花粉がめしべに受粉受精することでその生长を开始します。今回、遗伝子発现の制御机构の一つであるヒストン修饰*1に関わるポリコーム复合体*2の构成因子OsEMF2a遗伝子の机能をゲノム编集*3によって欠损させた変异体で、受精していない子房においても自律的に胚乳が発生して肥大し、デンプン合成过程まで进行することを発见しました(図1)。このことから、受精によって开始される一连の生长过程がOsEMF2aによって抑制されていることが考えられます。
イネの花粉は环境の影响を受けやすく、例えば気温が低い际には花粉が正常に形成されず冷害の主要因になることが知られています。本研究をさらに発展させることで、花粉を用いることなく充実した胚乳(お米)を作ることのできる品种を开発できれば、环境変化に左右されることのない安定したお米の生产が可能になると期待されます。
本研究は『』に掲载されました。
イネの胚乳は、花粉がめしべに受粉受精することでその生长を开始します。今回、遗伝子発现の制御机构の一つであるヒストン修饰*1に関わるポリコーム复合体*2の构成因子OsEMF2a遗伝子の机能をゲノム编集*3によって欠损させた変异体で、受精していない子房においても自律的に胚乳が発生して肥大し、デンプン合成过程まで进行することを発见しました(図1)。このことから、受精によって开始される一连の生长过程がOsEMF2aによって抑制されていることが考えられます。
イネの花粉は环境の影响を受けやすく、例えば気温が低い际には花粉が正常に形成されず冷害の主要因になることが知られています。本研究をさらに発展させることで、花粉を用いることなく充実した胚乳(お米)を作ることのできる品种を开発できれば、环境変化に左右されることのない安定したお米の生产が可能になると期待されます。
本研究は『』に掲载されました。
図1.通常のイネにおける胚乳発生(左)とemf2a変异体における自律的な胚乳発生(右)
emf2a変异体では花粉を受粉しない场合でも、受粉した通常イネと同様に胚乳が肥大し、デンプン粒が形成される。
emf2a変异体では花粉を受粉しない场合でも、受粉した通常イネと同様に胚乳が肥大し、デンプン粒が形成される。
研究成果のポイント
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研究の背景
イネの胚乳(お米)は、我々の主食となるだけでなく、种子形成过程の胚発生や発芽时の実生への养分供给の机能を持った重要な器官です。そのため、古くから胚乳発生に関わる研究が进められていますが、その多くがコメの主成分であるデンプン合成が行われる成熟过程に着目したものでした(窜丑辞耻 et al., Curr. Opin. Plant Biol, 2013)。一方で、登熟期以前の胚乳初期発生*4过程は胚乳细胞数を决定し,胚乳细胞が形成される重要な过程であるにも関わらず,その発生に関わる分子はほとんど明らかになっていませんでした。
アブラナ科のモデル植物であるシロイヌナズナにおいて、ヒストン修饰に関与するポリコーム复合体が胚乳初期発生を制御することが报告されていますが(贬别丑别苍产别谤驳别谤 et al., Development, 2012)、双子葉植物と単子葉植物では胚乳発生様式が大きく異なっており、単子葉植物におけるポリコーム複合体と胚乳発生との関係性は明らかにされていませんでした。
アブラナ科のモデル植物であるシロイヌナズナにおいて、ヒストン修饰に関与するポリコーム复合体が胚乳初期発生を制御することが报告されていますが(贬别丑别苍产别谤驳别谤 et al., Development, 2012)、双子葉植物と単子葉植物では胚乳発生様式が大きく異なっており、単子葉植物におけるポリコーム複合体と胚乳発生との関係性は明らかにされていませんでした。
研究の内容
本研究グループでは、ゲノム编集技术を用いてイネのポリコーム复合体构成因子であるOsEMF2aの机能を欠损させ、その机能解析を実施しました。通常、受精していない子房はそのまま退化してしまいますが、emf2a変异体では花粉を受粉させていないにもかかわらず、肥大する子房が出现することを発见しました(図2)。また、组织学的な解析から、emf2a変异体で见られる肥大した子房では、通常の胚乳発生过程と同様の胚乳核の分裂や、胚乳细胞内で合成されるデンプンの蓄积が行われていることを明らかにしました(図2)。この结果から、OsEMF2aは、受精するまでの间、胚乳発生を进行しないように抑制する働きを持つことが示されました。
次に、受粉后の种子形成过程におけるOsEMF2aの机能についても调査を行いました。emf2a変异体の种子では、胚乳発生に遅延が生じており、正常な种子形成を行うことができておらず(図3)、OsEMF2aが受精后の胚乳発生の制御にも関与することを突き止めました。さらに、emf2a変异体における、次世代シークエンサー*5を用いたトランスクリプトーム解析(搁狈础-蝉别辩解析)および全ゲノムのヒストン修饰解析(颁丑滨笔-蝉别辩解析)を実施し、OsEMF2aに制御される多数の遗伝子を网罗的に同定することに成功しました。中でも、胚乳発生のおいて重要な働きを担っていると考えられるインプリント遗伝子*6のほとんどがOsEMF2aに制御されていることを明らかにすることができました。
これらの結果から、イネのポリコーム複合体の构成因子OsEMF2aが、受精前と受精后の両方の胚乳発生の制御に関与していることを示すとともに、その机能が被子植物で広く保存されていることを明らかにすることができました。加えて、emf2a変异体で见られた自律的な胚乳発生によってデンプン合成过程まで発生が进行する现象は、双子叶植物では见られない新しい発见でした。
次に、受粉后の种子形成过程におけるOsEMF2aの机能についても调査を行いました。emf2a変异体の种子では、胚乳発生に遅延が生じており、正常な种子形成を行うことができておらず(図3)、OsEMF2aが受精后の胚乳発生の制御にも関与することを突き止めました。さらに、emf2a変异体における、次世代シークエンサー*5を用いたトランスクリプトーム解析(搁狈础-蝉别辩解析)および全ゲノムのヒストン修饰解析(颁丑滨笔-蝉别辩解析)を実施し、OsEMF2aに制御される多数の遗伝子を网罗的に同定することに成功しました。中でも、胚乳発生のおいて重要な働きを担っていると考えられるインプリント遗伝子*6のほとんどがOsEMF2aに制御されていることを明らかにすることができました。
これらの結果から、イネのポリコーム複合体の构成因子OsEMF2aが、受精前と受精后の両方の胚乳発生の制御に関与していることを示すとともに、その机能が被子植物で広く保存されていることを明らかにすることができました。加えて、emf2a変异体で见られた自律的な胚乳発生によってデンプン合成过程まで発生が进行する现象は、双子叶植物では见られない新しい発见でした。
図2.胚乳発生の様子
emf2a変异体では通常のイネと同様に、胚乳初期発生に特徴的な现象である「胚乳核の分裂」と「デンプンの蓄积」が确认された。
emf2a変异体では通常のイネと同様に、胚乳初期発生に特徴的な现象である「胚乳核の分裂」と「デンプンの蓄积」が确认された。
図3. 通常のイネとemf2a変异体における胚乳発生(左)および成熟种子(右)の比较
emf2a変异体では通常のイネとは异なり、胚乳発生に遅延が生じ、胚乳の细胞化が起こっていないことから、OsEMF2aが受精后の胚乳発生の制御にも関与することを突き止めた。
emf2a変异体では通常のイネとは异なり、胚乳発生に遅延が生じ、胚乳の细胞化が起こっていないことから、OsEMF2aが受精后の胚乳発生の制御にも関与することを突き止めた。
今后の展开
本研究では、これまで理解の进んでいなかったイネの初期胚乳を制御する复数の遗伝子を同定することができました。今回、同定した胚乳発生に関连した遗伝子の机能や制御を明らかにしていくことで、イネの胚乳の大きさを自由に改変する育种に利用できると考えています。
また、emf2a変异体では受精することなく一连の胚乳発生过程が进行し、自律的な胚乳を形成することを発见しました。この自律的な胚乳発生のメカニズムに関する研究を进めることで、受粉过程を行わずに充実した胚乳を形成するイネ品种が开発でき、気温などの环境変动に影响される花粉に依存しない、自律的なコメ生产の実现が期待されます。
文:
殿崎薫(岩手大学 助教)
木下哲(横浜市立大学 教授)
※本研究は、文部科学省科研費 新学術領域研究「植物新種誕生の原理」、日本学術振興会(JSPS)若手研究B、科学技術振興機構(JST)ALCA「人為的アポミクシス誘導技術の開発による植物育種革命」などの支援を受けて、日本、アメリカの2カ国、計7研究機関の国際共同研究として遂行しました。また、国立遺伝学研究所の公募型共同研究「NIG-JOINT」の成果のひとつです。
また、emf2a変异体では受精することなく一连の胚乳発生过程が进行し、自律的な胚乳を形成することを発见しました。この自律的な胚乳発生のメカニズムに関する研究を进めることで、受粉过程を行わずに充実した胚乳を形成するイネ品种が开発でき、気温などの环境変动に影响される花粉に依存しない、自律的なコメ生产の実现が期待されます。
文:
殿崎薫(岩手大学 助教)
木下哲(横浜市立大学 教授)
※本研究は、文部科学省科研費 新学術領域研究「植物新種誕生の原理」、日本学術振興会(JSPS)若手研究B、科学技術振興機構(JST)ALCA「人為的アポミクシス誘導技術の開発による植物育種革命」などの支援を受けて、日本、アメリカの2カ国、計7研究機関の国際共同研究として遂行しました。また、国立遺伝学研究所の公募型共同研究「NIG-JOINT」の成果のひとつです。
掲载论文
Mutation of the imprinted gene OsEMF2a induces autonomous endosperm development and delayed cellularization in rice.
Kaoru Tonosaki, Akemi Ono, Megumi Kunisada, Megumi Nishino, Hiroki Nagata, Shingo Sakamoto, Saku T. Kijima, Hiroyasu Furuumi, Ken-ichi Nonomura, Yutaka Sato, Masaru Ohme-Takagi, Masaki Endo, Luca Comai, Katsunori Hatakeyama, Taiji Kawakatsu, Tetsu Kinoshita.
The Plant Cell. DOI:
Kaoru Tonosaki, Akemi Ono, Megumi Kunisada, Megumi Nishino, Hiroki Nagata, Shingo Sakamoto, Saku T. Kijima, Hiroyasu Furuumi, Ken-ichi Nonomura, Yutaka Sato, Masaru Ohme-Takagi, Masaki Endo, Luca Comai, Katsunori Hatakeyama, Taiji Kawakatsu, Tetsu Kinoshita.
The Plant Cell. DOI:
発表者
木下 哲(横浜市立大学 木原生物学研究所)
殿崎 薫(横浜市立大学 木原生物学研究所:当時、岩手大学 農学部)
小野 明美(横浜市立大学 木原生物学研究所)
国定 愛美(横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科:当時)
西野 愛(横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科)
永田 博基(横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科)
坂本 真吾(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)
貴嶋 紗久(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門:当時)
古海 弘康(情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所 技術課)
野々村 賢一(情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所 植物細胞遺伝研究室)
佐藤 豊(情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所 植物遺伝研究室)
高木 優(埼玉大学 大学院理工学研究科)
畠山 勝徳(岩手大学 農学部)
遠藤 真咲(農研機構 生物機能利用研究部門)
川勝 泰二(農研機構 生物機能利用研究部門)
殿崎 薫(横浜市立大学 木原生物学研究所:当時、岩手大学 農学部)
小野 明美(横浜市立大学 木原生物学研究所)
国定 愛美(横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科:当時)
西野 愛(横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科)
永田 博基(横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科)
坂本 真吾(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)
貴嶋 紗久(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門:当時)
古海 弘康(情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所 技術課)
野々村 賢一(情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所 植物細胞遺伝研究室)
佐藤 豊(情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所 植物遺伝研究室)
高木 優(埼玉大学 大学院理工学研究科)
畠山 勝徳(岩手大学 農学部)
遠藤 真咲(農研機構 生物機能利用研究部門)
川勝 泰二(農研機構 生物機能利用研究部門)
用语説明
*1.ヒストン修饰
核内では、顿狈础はヒストンというタンパク质に巻きついた状态で折り畳まれている。ヒストンは、メチル化やアセチル化などの化学的な修饰を受けることが知られており、化学的な修饰の种类によって、遗伝子の発现を、抑制または促进することが知られている。
*2.ポリコーム复合体
遗伝子発现に抑制的に働くヒストン修饰を触媒しているタンパク质の复合体。様々な生命现象の制御に関わり、动物から植物まで幅広い生物种が共通して持つことが知られている。
*3.ゲノム编集
人工の顿狈础切断システムを利用して、标的遗伝子の顿狈础配列を高い精度で编集?改変する技术。本研究では、颁搁滨厂笔搁/颁补蝉9というゲノム编集手法を用いた。
*4.胚乳初期発生
胚乳では、受精后に核分裂のみを繰り返す过程があり多核体を形成する。その后、一斉に细胞质分裂をおこない1核1细胞にわかれ、细胞壁も形成される。この过程は细胞化と呼ばれる。
*5.次世代シークエンサー
数百万?数亿の膨大な数の顿狈础分子の塩基配列决定が可能な分析装置。従来のシークエンス技术では、ヒトゲノム解読に10年を要したが、次世代シークエンサーでは1日で完了する。
*6.インプリント遗伝子
両亲から受け継いだ遗伝子のうち、父亲由来または、母亲由来のどちらかが优先的に発现し、他方は発现が抑制されている遗伝子。インプリント遗伝子に异常が起こると、植物では种子の発达异常、ヒトでは笔谤补诲别谤-奥颈濒濒颈症候群などの疾患が生じる事が知られている。
核内では、顿狈础はヒストンというタンパク质に巻きついた状态で折り畳まれている。ヒストンは、メチル化やアセチル化などの化学的な修饰を受けることが知られており、化学的な修饰の种类によって、遗伝子の発现を、抑制または促进することが知られている。
*2.ポリコーム复合体
遗伝子発现に抑制的に働くヒストン修饰を触媒しているタンパク质の复合体。様々な生命现象の制御に関わり、动物から植物まで幅広い生物种が共通して持つことが知られている。
*3.ゲノム编集
人工の顿狈础切断システムを利用して、标的遗伝子の顿狈础配列を高い精度で编集?改変する技术。本研究では、颁搁滨厂笔搁/颁补蝉9というゲノム编集手法を用いた。
*4.胚乳初期発生
胚乳では、受精后に核分裂のみを繰り返す过程があり多核体を形成する。その后、一斉に细胞质分裂をおこない1核1细胞にわかれ、细胞壁も形成される。この过程は细胞化と呼ばれる。
*5.次世代シークエンサー
数百万?数亿の膨大な数の顿狈础分子の塩基配列决定が可能な分析装置。従来のシークエンス技术では、ヒトゲノム解読に10年を要したが、次世代シークエンサーでは1日で完了する。
*6.インプリント遗伝子
両亲から受け継いだ遗伝子のうち、父亲由来または、母亲由来のどちらかが优先的に発现し、他方は発现が抑制されている遗伝子。インプリント遗伝子に异常が起こると、植物では种子の発达异常、ヒトでは笔谤补诲别谤-奥颈濒濒颈症候群などの疾患が生じる事が知られている。
问い合わせ先
研究?产学连携推进课 研究企画担当
E-mail : kenkyupr@yokohama-cu.ac.jp