2021.11.22
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がん治療薬の開発に向けた UHRF1 の機能阻害剤を発見
横浜市立大学大学院生命医科学研究科 構造生物学研究室 有田 恭平 教授、郡 聡実さん(博士後期課程 3 年)、同研究科 生命情報科学研究室 浴本 亨 助教、柴橋 佑希 特任助手、池口 満徳 教授らを中心とした研究グループは、がん治療薬開発の標的となるタンパク質UHRF1*1 の機能阻害剤を、構造生物学と計算科学を組み合わせた手法で発見しました。本成果は UHRF1 を標的とした新たな作用点となるがんの薬剤開発の基盤となります。
本研究は、『Bioorganic & Medicinal Chemistry』(IF: 3.641)に掲載されました。(2021 年11 月 10 日オンライン)
本研究は、『Bioorganic & Medicinal Chemistry』(IF: 3.641)に掲載されました。(2021 年11 月 10 日オンライン)
研究成果のポイント
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研究背景
がんは、日本人の死因第一位です。細胞のがん化には加齢、生活習慣、紫外線など様々な要因が挙げられますが、そのうちの一つに DNA メチル化*3 異常があります。ヒトの体は数10 兆個もの細胞で構成されていますが、細胞の種類としては筋肉細胞や神経細胞、血液細胞など約 270 に絞られています。たとえば、血液細胞のひとつである白血球としての構造と機能を個々の細胞に持たせるためには、それに相当する遺伝子の発現が必要になります。この遺伝子の発現を制御しているのが DNA メチル化であり、パターンによって、様々な細胞の種類が決まっています。DNA メチル化がヒトの生涯を通して維持されることで、細胞は正常に増殖することができます。これを DNA 維持メチル化といいます。
DNA 維持メチル化が正常に働かなくなると、がんの抑制に働く遺伝子が発現しなくなったり、ゲノム全体の不安定化が起こったりします。その結果、細胞ががん化します。DNA 維持メチル化には、DNA メチル化酵素 DNMT1 とその働きを補助する UHRF1 タンパク質が必ず作用していますが、様々ながん細胞においてこの UHRF1 タンパク質が過剰発現しており、がん細胞の異常増殖と関連することが報告されています。このことから、UHRF1 の機能阻害剤はがん治療薬になると期待されています。
鲍贬搁贵1は5つの机能ドメインで构成されています。我々は2017年に、鲍贬搁贵1の机能ドメインの一つである罢罢顿ドメインが、リジン126がメチル化された尝滨骋1(尝滨骋1碍126尘别3)と结合し、これにより鲍贬搁贵1が顿狈础复製の起こっている场所に呼び込まれることを报告しました(2017 年 8 月記者発表:細胞記憶の理解に新たな糸口)。
さらに、2019 年には UHRF1-TTD ドメインと LIG1K126me3 との複合体の立体構造を X 線結晶構造解析で決定し、その詳細な分子機構を解明しました(2019 年 1 月記者発表:UHRF1と LIG1 の複合体構造解析)。この立体構造の解明から、TTD ドメインと LIG1 の結合には、 TTD ドメインの「アルギニン結合溝」と名付けたポケットと LIG1 のアルギニン 121 の相互作用が重要であることが分かりました。
今回我々は、UHRF1 の機能を阻害するためにこのアルギニン結合溝に注目しました。 UHRF1 は DNA 維持メチル化の初期の過程で LIG1 と相互作用します。従って、LIG1 との結合を阻害する化合物はがん細胞での UHRF1 の機能を阻害し、がん細胞で見られる異常なDNA メチル化の改善につながると期待されます。
DNA 維持メチル化が正常に働かなくなると、がんの抑制に働く遺伝子が発現しなくなったり、ゲノム全体の不安定化が起こったりします。その結果、細胞ががん化します。DNA 維持メチル化には、DNA メチル化酵素 DNMT1 とその働きを補助する UHRF1 タンパク質が必ず作用していますが、様々ながん細胞においてこの UHRF1 タンパク質が過剰発現しており、がん細胞の異常増殖と関連することが報告されています。このことから、UHRF1 の機能阻害剤はがん治療薬になると期待されています。
鲍贬搁贵1は5つの机能ドメインで构成されています。我々は2017年に、鲍贬搁贵1の机能ドメインの一つである罢罢顿ドメインが、リジン126がメチル化された尝滨骋1(尝滨骋1碍126尘别3)と结合し、これにより鲍贬搁贵1が顿狈础复製の起こっている场所に呼び込まれることを报告しました(2017 年 8 月記者発表:細胞記憶の理解に新たな糸口)。
さらに、2019 年には UHRF1-TTD ドメインと LIG1K126me3 との複合体の立体構造を X 線結晶構造解析で決定し、その詳細な分子機構を解明しました(2019 年 1 月記者発表:UHRF1と LIG1 の複合体構造解析)。この立体構造の解明から、TTD ドメインと LIG1 の結合には、 TTD ドメインの「アルギニン結合溝」と名付けたポケットと LIG1 のアルギニン 121 の相互作用が重要であることが分かりました。
今回我々は、UHRF1 の機能を阻害するためにこのアルギニン結合溝に注目しました。 UHRF1 は DNA 維持メチル化の初期の過程で LIG1 と相互作用します。従って、LIG1 との結合を阻害する化合物はがん細胞での UHRF1 の機能を阻害し、がん細胞で見られる異常なDNA メチル化の改善につながると期待されます。
研究内容
今回研究グループは、UHRF1-TTD ドメインのアルギニン結合溝に結合し、LIG1 との相互作用を阻害する UHRF1 機能阻害剤:5A-DMP の同定に成功しました。
【计算科学による化合物ライブラリからの候补化合物の选别】
以下のように複数の計算科学的な手法を用いて、約 20 万個の化合物ライブラリからUHRF1-TTD ドメインのアルギニン結合溝に結合する候補化合物を 130 個まで絞り込みました(図 1)。
(1) 2019 年に報告した UHRF1-TTD ドメインと LIG1K126me3 の複合体の結晶構造を基に、ドッキングシミュレーションを実施
(2) TTD ドメインのアルギニン結合溝に高い確率で結合すると予測された化合物に対しては、横浜市立大学が保有するスーパーコンピュータ上で分子動力学計算を行い、水分子やタンパク質の構造の揺らぎも指標に加えて評価
(3) この分子動力学計算からTTD ドメインのアルギニン結合溝と化合物の間で形成された相互作用情報を抽出し、その種類や頻度を反映させた動的ファーマコフォアモデル *4 を作成、当该モデルに当てはまる化合物をライブラリの中からさらに选出
【计算科学による化合物ライブラリからの候补化合物の选别】
以下のように複数の計算科学的な手法を用いて、約 20 万個の化合物ライブラリからUHRF1-TTD ドメインのアルギニン結合溝に結合する候補化合物を 130 個まで絞り込みました(図 1)。
(1) 2019 年に報告した UHRF1-TTD ドメインと LIG1K126me3 の複合体の結晶構造を基に、ドッキングシミュレーションを実施
(2) TTD ドメインのアルギニン結合溝に高い確率で結合すると予測された化合物に対しては、横浜市立大学が保有するスーパーコンピュータ上で分子動力学計算を行い、水分子やタンパク質の構造の揺らぎも指標に加えて評価
(3) この分子動力学計算からTTD ドメインのアルギニン結合溝と化合物の間で形成された相互作用情報を抽出し、その種類や頻度を反映させた動的ファーマコフォアモデル *4 を作成、当该モデルに当てはまる化合物をライブラリの中からさらに选出
図 1 計算科学による候補化合物の選出の概略図
20 万個超の化合物を含む化合物ライブラリから、ドッキングシミュレーションと分子動力学シミュレーシ ョンを駆使して 44 個の候補化合物を選出した。分子動力学シミュレーションから得た構造揺らぎの情報から動的ファーマコフォアモデルを作成し、相互作用様式が似ている化合物を 86 個選出した。トータルで130 個の化合物を計算科学的な手法で選出した。
【构造生物学による化合物の结合様式の解明と机能阻害の検証】
計算科学の研究方法で選別した 130 個の化合物が実際に TTD ドメインに結合するかを実験的に確認しました。一般的にタンパク質に低分子化合物が結合するとその熱安定性が向上することが知られています。TTD ドメインに 130 個の化合物をそれぞれ加えて熱安定性の変化を調べた結果、130 個の候補化合物の中から 2 個の化合物が TTD ドメインの熱安定性を向上させることを見出しました。また、2 個の候補のうち、TTD ドメインの熱安定性を最も向上させた化合物である 5-amino-2,4-dimethylpyridine (5A-DMP)が TTD ドメインに結合することを、生体分子間の相互作用を解析する等温滴定型カロリーメトリーで明らかにしました。さらに、TTD ドメインと 5A-DMP の複合体を結晶化して、大型放射光施設Photon Factory(PF)の BL-5A を用いて X 線回折実験を行い、その複合体構造を、世界最高水準の 1.45 Å 分解能で決定しました。これにより、5A-DMP が TTD ドメインのアルギニン結合溝に入りこんでおり、5A-DMP はその構造のほぼすべての部分を使って TTD ドメインに結合していることを明らかにしました(図 2)。
計算科学の研究方法で選別した 130 個の化合物が実際に TTD ドメインに結合するかを実験的に確認しました。一般的にタンパク質に低分子化合物が結合するとその熱安定性が向上することが知られています。TTD ドメインに 130 個の化合物をそれぞれ加えて熱安定性の変化を調べた結果、130 個の候補化合物の中から 2 個の化合物が TTD ドメインの熱安定性を向上させることを見出しました。また、2 個の候補のうち、TTD ドメインの熱安定性を最も向上させた化合物である 5-amino-2,4-dimethylpyridine (5A-DMP)が TTD ドメインに結合することを、生体分子間の相互作用を解析する等温滴定型カロリーメトリーで明らかにしました。さらに、TTD ドメインと 5A-DMP の複合体を結晶化して、大型放射光施設Photon Factory(PF)の BL-5A を用いて X 線回折実験を行い、その複合体構造を、世界最高水準の 1.45 Å 分解能で決定しました。これにより、5A-DMP が TTD ドメインのアルギニン結合溝に入りこんでおり、5A-DMP はその構造のほぼすべての部分を使って TTD ドメインに結合していることを明らかにしました(図 2)。
図 2 TTD ドメインと 5A-DMP の複合体の X 線結晶構造
罢罢顿ドメインを水色、5础-顿惭笔をマジェンタで示す。复合体の全体构造(左図)とアルギニン结合沟の拡大図(右図)。5础-顿惭笔が罢罢顿ドメインのアルギニン结合沟に入り込み、尝滨骋1との结合を阻害する。
さらに無細胞実験系を用い、5A-DMPがUHRF1とLIG1の結合を阻害できることも検証しました(東京大学 中西真 教授、西山敦哉 准教授との共同研究)。LIG1を特異的に認識する抗体を用いて、免疫沈降させた画分にUHRF1が含まれているかどうかで、UHRF1とLIG1の結合を評価しました。5A-DMPが存在しない時は、免疫沈降した画分にUHRF1が含まれており、UHRF1とLIG1が結合することが示されていますが、5A-DMPを加えるとその濃度依存的にUHRF1とLIG1の結合が見られなくなることが分かりました。このことから、今回発見した5A-DMPがUHRF1-TTDドメインのアルギニン結合溝に結合して、LIG1との結合を阻害する働きを持つことを明らかにしました。
今后の展开
本研究では、計算科学と構造生物学を組み合わせた融合研究により、UHRF1 の機能阻害剤の種となるリード化合物の探索に成功しました。特に分子動力学計算を組み合わせた探索は、膨大な数の化合物ライブラリ中から効率的に候補化合物の選別が行えることを実証し、今後の阻害剤探索研究における新たな方法論を提示できたものと考えています。
本研究では、5A-DMP が UHRF1 と LIG1 の結合を阻害することを示し、がん細胞で過剰発現した UHRF1 の機能を抑えられる可能性を見出しました。しかし、現段階では、細胞内でUHRF1 の機能を阻害するには 5A-DMP の UHRF1 への結合は十分に強くありません。今後、当研究チームでは 5A-DMP の構造を改変して、細胞内で十分な活性を持った UHRF1 機能阻害剤の開発に取り組んでいく予定です。
本研究では、5A-DMP が UHRF1 と LIG1 の結合を阻害することを示し、がん細胞で過剰発現した UHRF1 の機能を抑えられる可能性を見出しました。しかし、現段階では、細胞内でUHRF1 の機能を阻害するには 5A-DMP の UHRF1 への結合は十分に強くありません。今後、当研究チームでは 5A-DMP の構造を改変して、細胞内で十分な活性を持った UHRF1 機能阻害剤の開発に取り組んでいく予定です。
研究费
本研究は、JSPS科研費(18H02392, 19H05294, 19H05741, 19H05285, 21H00272, 19H05740, 18H05426)、理化学研究所 動的構造生物学研究プロジェクト、科学技術振興機構(JST)さきがけ、武田科学振興財団(1871140003)、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)(1614 and 1746, JP21am0101109 and JP20am0101094)、横浜市立大学(学長裁量事業)戦略的研究推進事業などの助成を受けて行われ、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム(JPMXP1020200101)と理化学研究所の支援により実施しました(hp200129, hp210172)。また、パリ?ディドロ大学のPierre-Antoine Defossez氏との日仏二国間交流事業(JSPSBP120192913)による国際共同研究の成果です。
论文情报
タイトル:Structure-based screening combined with computational and biochemical analyses identified the inhibitor targeting the binding of DNA Ligase 1 to UHRF1
著者:Satomi Kori, Yuki Shibahashi, Toru Ekimoto, Atsuya Nishiyama, Sae Yoshimi, Kosuke Yamaguchi, Satoru Nagatoishi, Masateru Ohta, Kouhei Tsumoto, Makoto Nakanishi, Pierre-Antoine Defossez, Mitsunori Ikeguchi, and Kyohei Arita
掲载雑誌:Bioorganic & Medicinal Chemistry
顿翱滨:
著者:Satomi Kori, Yuki Shibahashi, Toru Ekimoto, Atsuya Nishiyama, Sae Yoshimi, Kosuke Yamaguchi, Satoru Nagatoishi, Masateru Ohta, Kouhei Tsumoto, Makoto Nakanishi, Pierre-Antoine Defossez, Mitsunori Ikeguchi, and Kyohei Arita
掲载雑誌:Bioorganic & Medicinal Chemistry
顿翱滨:
用语説明
*1 UHRF1:
顿狈础メチル化维持に必须の役割をするタンパク质。片锁メチル化顿狈础に结合したり、9番目のリジンがメチル化されたヒストン贬3に结合したり、ヒストン贬3や复製因子笔础贵15をユビキチン化するなど様々な机能を発挥することで、顿狈础メチル化パターンの复製を诱导する。がん细胞で过剰発现しており、异常な细胞増殖に関与する。
*2 LIG1:
顿狈础复製中にラギング锁で生じる冈崎フラグメントを连结する酵素。复製が起こっている场所に局在し、リジン126のメチル化依存的に鲍贬搁贵1を复製部位に呼び込む働きも持つ。
*3 DNAメチル化:
顿狈础中のシトシン塩基の5位の炭素にメチル基(颁贬3-)が付加される反応。ヒトでは主に颁骋配列中のシトシン塩基がメチル化される。顿狈础メチル化により、遗伝子の発现が抑制されると考えられている。生物の体(多细胞の形质)を形成するために必须であり、顿狈础メチル化异常はがん化の原因の一つである。
*4 動的ファーマコフォアモデル:
タンパク质と结合した化合物を、水分子も含めた溶液系で全原子分子动力学シミュレーションを実施し、构造揺らぎを含んだ状态における化合物の安定な位置情报を取得する。その位置情报を基に、水素结合や疎水性相互作用等の相互作用をモデル化(ファーマコフォアモデル)する。ファーマコフォアモデルで表现される相互作用を、分子动力学シミュレーションから得たスナップショットで动的平均をとると、相互作用が形成された频度の情报を付加した动的ファーマコフォアモデルを作成できる。
顿狈础メチル化维持に必须の役割をするタンパク质。片锁メチル化顿狈础に结合したり、9番目のリジンがメチル化されたヒストン贬3に结合したり、ヒストン贬3や复製因子笔础贵15をユビキチン化するなど様々な机能を発挥することで、顿狈础メチル化パターンの复製を诱导する。がん细胞で过剰発现しており、异常な细胞増殖に関与する。
*2 LIG1:
顿狈础复製中にラギング锁で生じる冈崎フラグメントを连结する酵素。复製が起こっている场所に局在し、リジン126のメチル化依存的に鲍贬搁贵1を复製部位に呼び込む働きも持つ。
*3 DNAメチル化:
顿狈础中のシトシン塩基の5位の炭素にメチル基(颁贬3-)が付加される反応。ヒトでは主に颁骋配列中のシトシン塩基がメチル化される。顿狈础メチル化により、遗伝子の発现が抑制されると考えられている。生物の体(多细胞の形质)を形成するために必须であり、顿狈础メチル化异常はがん化の原因の一つである。
*4 動的ファーマコフォアモデル:
タンパク质と结合した化合物を、水分子も含めた溶液系で全原子分子动力学シミュレーションを実施し、构造揺らぎを含んだ状态における化合物の安定な位置情报を取得する。その位置情报を基に、水素结合や疎水性相互作用等の相互作用をモデル化(ファーマコフォアモデル)する。ファーマコフォアモデルで表现される相互作用を、分子动力学シミュレーションから得たスナップショットで动的平均をとると、相互作用が形成された频度の情报を付加した动的ファーマコフォアモデルを作成できる。
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