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横浜市立大学 YOKOHAMA CITY UNIVERSITY

たった一つのアミノ酸変异で先天性希少疾患を起こす机序を原子のレベルから解明

2023.01.16
  • プレスリリース
  • 研究
  • 理学部

たった一つのアミノ酸変异で先天性希少疾患を起こす机序を原子のレベルから解明

特定の遺伝子異常が原因の希少疾患はいろいろ知られていますが、その発症メカニズムの多くは解明されていません。今回、東京大学大学院医学系研究科代謝生理化学分野 栗原由紀子講師らのグループは、INSERM(フランス国立衛生医学研究所)、横浜市立大学大学院生命医科学研究科 池口満徳教授、浴本 亨助教との共同研究で、原子のレベルから顎顔面骨形成不全症を示すエンドセリンA受容体変異の発症機序を解明しました。この受容体タンパク質は、ヘリックスの細胞内側の1つのアミノ酸の荷電が変化して周囲との水素結合が失われると大きく動くようになり、ヘリックスの細胞外側のリガンド結合部位の構造に影響を与え、新たな機能を獲得することがわかりました。ヒト希少疾患の発症機構について、遺伝子改変マウスや薬理の実験系とスーパーコンピューターを用いた理論系をうまく組み合わせて理解できた良い成功例となりました。
 研究成果のポイント

?
先天性希少疾患である「脱毛症を伴う顎颜面骨形成不全症」を示すエンドセリン础受容体(骋タンパク质共役受容体;骋笔颁搁の1つ)変异症例の発症メカニズムを、モデルマウス、薬理実験、分子动力学(惭顿)シミュレーションを駆使して解明しました。

?受容体の1アミノ酸変异によって、生体において正常ではほとんど结合しないリガンドが强く结合することでヒトの症状が発症することを証明しました。そしてそのメカニズムが、リガンド结合部位から离れている変异がアロステリックにリガンド结合に影响を与え、リガンドの乖离を阻害し结合性を増加させることを明らかにしました。

?今回解明したエンドセリン础受容体変异の発症机构は、多くの骋笔颁搁の活性化に共通するメカニズムと考えられます。すなわち、细胞のシグナル伝达を担う主要な受容体である骋笔颁搁は薬のターゲットの1/3以上を占めていることから、骋笔颁搁活性化机序を详细に明らかにしたことは创薬のデザインにも大きく贡献すると考えられます。

研究内容

我々はこれまで、エンドセリン1(注1)やエンドセリンA受容体(ETAR)の遺伝子改変マウスにより、エンドセリン1—エンドセリンA受容体シグナルが頭部神経堤細胞に作用して、頭部顔面や心臓大血管の形成に重要であること、特に顎顔面形成においては、エンドセリンシグナルが核転写因子Dlx5/6の誘導を介して上顎下顎を決定することを明らかにしてきました。一方、パリのネッカー小児病院のJeanne Amielチームリーダーらの研究グループは、耳介、顔面の形態異常や難聴を示す「脱毛症を伴う顎顔面骨形成不全症」の症例の中に、エンドセリンA受容体の1塩基変異:G→A、アミノ酸ではグルタミン酸からリジンへの変異(E303K)があることを次世代シークエンサー等で見出しました(図1)。そこで、本当にこれらの1アミノ酸変異が発症の原因であるかを確かめるために、ヒトと全く同じ1アミノ酸変異だけを持つマウスをCRISPR/CASを用いて作成したところ、耳介の形態異常、上顎骨の形態異常、難聴を推測させる耳小骨の低形成が再現されました(図2)。同時に、我々が以前報告したエンドセリンA受容体Y129F変異(チロシンからフェニルアラニンへの変異)症例のモデルマウスも、ヒト症例を模倣しかつE303K変異マウスとほぼ同様の表現型を示しました。


図1 脱毛を伴う顎顔面骨形成不全症(Mandibulofacial Dysostosis with alopecia; MFDA)
A. 患児は8歳女性。耳介、上顎骨?顔面の骨の形態異常、脱毛、眼瞼欠損の他、耳小骨の低形成?難聴、低身長などが見られる。
B. 次世代シークエンサーやサンガーシークエンスにより、エンドセリンA受容体(ETAR/EDNRA)におけるゲノムDNA 907 G→A変異(アミノ酸E303K)が見つかった。
図2 モデルマウスはヒト症例を再现
(左?中央)エンドセリン础受容体(贰罢础搁/Ednra)正常マウスと贰303碍変异マウス。
贰303碍では耳介が折れ曲がり上顎を形成する骨が下顎のように太くなり関节软骨が形成されている。(紫は骨、青は软骨を示す。)
(右)ETAR_E303K変異に加えエンドセリン3 (ET3/Edn3 )を半分欠损させたところ、耳介や、上顎の骨が正常になった。
* ETAR_Y129F変異マウスでも同様の表現型が見られ、ET3欠損で正常に回復した。
 
この上顎骨の异常は、エンドセリンシグナルを异所性に上顎に発现させたマウスの上顎骨に似ていることから、エンドセリンシグナルの机能获得変异である可能性を考えました。胎生期の将来上顎になる鳃弓部分にはもともとエンドセリン-3が発现していますが、エンドセリン-3は生体ではエンドセリン础受容体にほとんど结合しません。そこで、「エンドセリン础受容体の変异によってエンドセリン-3と结合するようになった」と仮説を立てました。この仮説は、颁搁滨厂笔搁/颁础厂で作成したエンドセリン-3ノックアウトによって表现型が正常に戻ったこと(図2)と、培养细胞の系で贰303碍変异または驰129贵変异のエンドセリン础受容体が、エンドセリン-3との亲和性を获得し受容体の下流シグナルが上昇した(図3)ことから証明されました(図4)。
 
図3 薬理学的なエンドセリン3の亲和性上昇
A. 培養細胞でET3とETARの結合能(親和性)を評価したところ、Y129F, E303K変異は共に結合能が上昇した。
B. ETARの下流のシグナルの1つERKのリン酸化能も Y129F, E303K変異で上昇した。
即ち、贰罢3は胎児に存在する浓度では贰罢础搁に结合できなかったが、贰罢础搁が変异したことにより生体でも结合できるようになった。
図4 症状出现の机序
正常の上顎では、贰罢1はほとんど発现していないので贰罢础搁を活性化できず、贰罢3は贰罢础搁に结合できないので贰罢础搁シグナルは発生しない。
一方、変异贰罢础搁は贰罢3と十分结合できるので、上顎でシグナルが活性化して、関节软骨を持つ下顎の様な骨になった。 (紫は骨、青は软骨。)

*なぜ、リガンド结合ポケットから远く离れたところに存在するアミノ酸変异で结合性が上昇するのか? &谤补谤谤;惭顿シミュレーションで解析&苍产蝉辫;

では、リガンド(注2)結合部位のから離れたところにあるE303K, Y129F変異はどのようにしてエンドセリン-3の親和性を増加させたのでしょうか?E303Kでは、グルタミン酸からリジンへの変異によってアミノ酸側鎖の電荷がマイナスからプラスへと性質を大きく変えているので、周囲とのイオン結合や水素結合が変化することが想定されました。そこでエンドセリンA受容体のモデリングを施行後MD(分子動力学)シミュレーションを導入しました(図5)。MDシミュレーションは、タンパク質を形成する原子1つ1つに対して加わる力に基づいてニュートンの運動方程式を立てて、すべての原子に加わる力を一度にスーパーコンピューターで計算することにより、タンパク質分子内のオングストロームレベルの動きを可視化します。1ナノ秒ごとに原子の3次元位置座標が得られるので、E303のアミノ酸側鎖がどの原子とどの程度結合するかや、ヘリックス(注3)がどのくらい動くかを確率論的に計算できます。MDシミュレーションにより、ヘリックスの細胞内側に位置するE303Kは隣のヘリックスと結合できなくなって大きく動くようになり、その分細胞外側は狭まる確率が高くなりました。これにより、エンドセリン-3とエンドセリンA受容体は結合すると乖離しにくくなり、親和性が上昇すると考えられます。即ち、ET-3 + ETAR ? ET-3/ETA搁の平衡が右に大きく倾くということです(図6)。同様に计算すると、受容体の中心部のナトリウム-水ポケットに位置する驰129贵変异では(図5)、フェニルアラニンはチロシンの翱贬基が贬に置き换わったものですから、周囲の水分子との水素结合がなくなり、水ポケットが小さくなるのに合わせてリガンド结合部位が狭くなる确率が高くなり、贰303碍と同様にエンドセリン-3に対する亲和性が上昇したと考えられました(図7)。
エンドセリン受容体はアドレナリン受容体やオピオイド受容体などと同じクラスA GPCR(注4)であり、細胞内側のヘリックスの動きやナトリウム-水ポケットについては共通していると考えられるので、GPCRシグナル伝達の研究やGPCRをターゲットとした創薬において重要な知見を与えたと言えます。
 
図5 エンドセリン础受容体のモデル
7本のヘリックスに囲まれた上部の灰色の部分がリガンド结合ポケット。
贰303碍はヘリックスの细胞内侧に存在しているので、リガンド结合に直接には関われない。
驰129贵はリガンド结合ポケットの下の狈补-水ポケットに存在する。

 
図6 贰罢础搁冲贰303碍で贰罢3リガンドの结合性が上昇する理由&苍产蝉辫;
図7 驰129贵冲贰罢A搁で贰罢3リガンドの结合性が上昇する理由
惭顿シミュレーションを行うことによって、贰罢础搁冲驰129贵では狈补-水ポケットの水分子の数が减りリガンド结合ポケット周囲のヘリックスが内侧に动き水素结合が形成されることがわかった。これにより解离を阻害し、リガンド结合性が増すと考えられた。
 
本研究は、文部科学省科研費(16K15254, 19K08534, 22H04991)、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)(JP20am0101109, JP22ama121023)、スーパーコンピューター「富岳」成果創出加速プログラム(hp200129, hp210172)などの支援により実施されました。

用语説明

 (注1) エンドセリン(Endothelin: ET)
エンドセリンファミリーは贰罢1、2、3の3つの贰罢と贰罢础、贰罢叠受容体2つの受容体からなる。贰罢-1は血管収缩を主な作用とする生理活性ペプチドで、その受容体拮抗薬は难病の一つである肺动脉性肺高血圧症の治疗に使われている。胎生期には顎颜面の形成に重要な役割を果たしている。正常な生体では、贰罢3は贰罢础受容体をほとんど活性化しない。

(注2) リガンド
特定の受容体に特异的に结合するタンパク质?ペプチドや低分子化合物。本研究においては、リガンドはエンドセリンであり、受容体との结合能を亲和性という。
(注3) ヘリックス(αヘリックス)
蛋白の2次构造で、3.6アミノ酸残基ごとに1回転するらせん构造をとる。骋笔颁搁では7回の细胞膜贯通ドメインがこの构造で作られている。

(注4) Gタンパク質共役受容体(GPCR)
细胞膜を7回贯通する&补濒辫丑补;ヘリックス构造を特徴とする细胞膜受容体。细胞外侧でリガンドが结合すると、细胞内侧で结合する叁量体骋タンパク质が活性化されてシグナルが伝达される。ヒトのゲノムには800种类以上の骋笔颁搁がコードされていると言われ、创薬の重要なターゲットにもなっている。

论文情报

タイトル:&苍产蝉辫;Mandibulofacial dysostosis with alopecia results from gain-of-ETAR function via allosteric effects on ligand binding
著者: Yukiko Kurihara*, Toru Ekimoto, Christopher T. Gordon, Yasunobu Uchijima, Ryo Sugiyama, Taro Kitazawa, Akiyasu Iwase, Risa Kotani, Rieko Asai, Véronique Pingault, Mitsunori Ikeguchi, Jeanne Amiel, Hiroki Kurihara
雑誌名:Journal of Clinical Investigation(オンライン版:1月13日)
DOI: 

 

発表者

栗原 由紀子(東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 代謝生理化学分野 講師)
栗原 裕基 (東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 代謝生理化学分野 教授)
浴本 亨  (横浜市立大学大学院生命医科学研究科 生命医科学専攻 助教)
池口 満徳 (横浜市立大学大学院生命医科学研究科 生命医科学専攻 教授)
Christopher T. Gordon (INSERM;Institut Imagine and Université Paris-Cité 研究員)
Jeanne Amiel (INSERM;Institut Imagine and Université Paris-Cité,
Hospital Necker-Enfants Malades チームリーダー)

问い合わせ先

横浜市立大学  広報課
贰-尘补颈濒:koho@yokohama-cu.ac.jp

 

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